1.
熱海の海沿いを昼間に自転車で走っていると、何もない場所で強烈な工事重機の機械音に出くわすことがある。調べてみると、どうやら土の処理や運搬を行う音らしい。熱海市内には、2021年7月に発生した土砂災害の残土を処理するために、土砂の仮置き場がいくつか存在する。そこから発せられた音が、山に反響して聞こえてきたのだ。
2.
しばしば人は、わけもわからず見えたり聴こえたりしてしまった物事に名前をつけることで、それらを記憶してきた。例えば「こだま」は、現在は音響学によって仕組みが証明され「谺」と示されるが、かつては「木霊」と書いて「こだま」と読まれてきた。これは、音が山から返ってくるのはきっと山の樹木の霊が答えているのだ、と信じられ、付けられた名前だ。
3.
作者はこれまで一貫して、写真撮影において生じる瞬間や経過の消失を扱いながら制作を続けてきた。熱海に響くこだまを契機とする本作は、人の認識によって不可視聴にされ消失してしまったものや、人が見たい聞きたいと信じることで現れるものへのを調査を基に、取捨選択と編集の集積である「撮影」と「伊豆の山の谺」とを重ね合わせながら「楠の木霊」を祀る來宮神社にて展開される新作となる。
——來宮神社 境内用頒布資料より