ホームスチール | Homesteal

  • Solo Exhibition
  • 2023
  • Past Works
  • キュレーション : 岩田智哉

    インストール: 森山𣳾地、百瀬文、久富瑠奈、中村壮志
    テクニカルサポート: 沼澤成毅
    協力: 株式会社カラーサイエンスラボ、株式会社フレームマン / 岸祐真、SUUMOタウン、デカメロン、布谷麻衣、PROJECT ATAMI事務局 / エリカ・ドレスクラー / 荒木久徳、須田行紀、瀬尾美月、森洋雄、山本敏弘カルロスフィリオ

東京 根津にあるキュレトリアルスペース The 5th Floor によって2021年から年に一度行われている企画「ANNUAL BRAKE」の一環として制作。これは、若手アーティストが招請を受け、自身の過去作のみで展覧会をつくり上げるというもの。

「ANNUAL BRAKE 2023」では、百瀬文中村壮志、竹久直樹が参加。

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fpsss(2017- 2018)

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L: フィルム写真/20220329-0010(2022), フィルム写真/20160707-0026(2016)
R: fpsss(2017- 2018)

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L: フィルム写真/20220329-0010(2022)
R: フィルム写真/20160707-0026(2016)

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水の区域や光の味、橋本の名前(2021)

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フィルム写真/20180308-0019(2018)

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柏手たち(2022)

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柏手たち(2022)

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柏手たち(2022)

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柏手たち(2022)

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柏手たち(2022)

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遠隔応答都度発光(2022)

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遠隔応答都度発光(2022)

まず初めに行ったのは、いままで撮影したフィルム写真のデータ整理だった。

 

フィルム写真、と自分が呼んでいるのは、35mmネガフィルムで撮影したのちフィルムスキャナーでスキャンしたデータのことだ。大学に入ってから目の前のもの全てが面白かったことは覚えているが、そこからなぜ「写真を撮ろう」と思い立ったかは全く覚えていない。いつの間にかカメラが首からぶら下がっていて、いつの間にか週に何回かネガを現像に出してはスキャナーと向き合う時間が自身の生活に組み込まれていた。
一枚のネガがデータになるまで、だいたい10分くらいの時間がかかる。その間はパソコンを触ることはできなくて(処理落ちしてしまうから)ひたすら待つしかない。ハードディスクを見る限りおおよそ5万点のデータを今まで作っていたようだが、そうすると単純計算で今までの人生28年のうち1年ほどはスキャナーを待っていたことになる。

 

今までフィルム写真を「作品」として展示することはほとんどなかった。撮影した瞬間が撮影者自身によって隠蔽されているように思えるから個人的なことをただ工夫もなく見せるのは気が進まなかったし、自分の撮ったものを見返すたび、面白いのは写真に写っている友人であって写真自体ではないと思っていた。だから今回は、単なる過去としてではなく、現在や未来の自分自身を示唆するものとして三枚のフィルム写真を展示に組み込むことにした。

 

一枚は、ちょうど今年の夏、本展とは別の展覧会の準備のために頻繁に会っていた友人の、2016年の写真。一枚は、その写真と同じ場所を、同じ友人と2022年に訪れて撮影した写真。そしてもう一枚は、現在自分が働いているWebデザイン会社が宣伝美術を担当していた展覧会を、友人たちと見に行く道中で撮った写真。

 

この3枚に限らず、一見、写真に写っているのはある特定の瞬間であって経過ではないように見える。だが、一枚の写真からはそこに写っていない別の瞬間を容易に想像することができる。撮影休憩中の散歩。昨日食べた黒酢茄子弁当。お前が夜中に放った言葉。狭い車の匂い。パソコンの隣にいた人。それらもまた、写真に写っているのである。そして、写っている瞬間を無限に連続させることで経過そのものが失われる一瞬を「撮影」と呼ぶようになってから、自分の作家活動は始まったのだと思う。

 

この展覧会は、2016年から2022年に制作された旧作のみで構成されている。タイトルは「ホームスチール」とした。これは野球において走者が守備側の一瞬の隙をついて三塁から本塁に帰ること、つまり「ホームベースへの盗塁」を指す和製英語だ。

 

2018年(当時大学4年生)の夏に「明るい部屋での写真」という作品を作った時、教授から「打点なしのツーベースみたいな作品だね」とコメントをもらったことがあった。それは普段自分が写真のデータに対して行う操作(レタッチ、圧縮、アップロードなど)を無理やり物理的に再現するインスタレーションで、写真映えはいいけどそれ以上でもそれ以下でもないような作品だったから、「ツーベース」という言葉が妙に腑に落ちたのを覚えている。
ところで、今回は「過去作のみ」という縛り付きの展覧会だから、すでに打者が塁に出ている。あとは一瞬の隙をついて帰ってくるだけだ。