竹久直樹個展 「ピンチ」 類推編 吉田山 ポスト・インターネット以後の写真メディアを活動の軸とするアーティスト竹久直樹による個展『ピンチ』の開催となります。 2022年に開催されたデカメロンでの個展『スーサイドシート』から1週間が経過しての3度目の個展となり、そのデカメロンとは同じ建物内の1階に位置するショーイングスペースです。通常では黒色の無地Tシャツが販売されている場所でもあります。 (竹久自体の作家性に新宿や歌舞伎町という土地性は依然として含まれておらず、この3か所での個展の連なりは特殊な導きによる事故、もしくは因果というピンチによって束ねられているとしか言いようがない。)
この3つの個展の間には 2 つの特殊なグループ展2に参加しており、デザイナー数名による展覧会広報のためのデザインを展示するというコンセプトのグループ展『power/point』(アキバタマビ 21、東京、2022)、そして展覧会の影の空間デザイナーともいえる作品設置技術者(通称インストーラー)が展覧会の主体となり企画を推し進める展覧会『ディスディスプレイ』(CALM&PUNKGALLERY、東京、2021) 、どちらも本来アーティストが主体となるはずの展覧会構造を組み替える実践の共同企画者として名を連ねています。
この2つのグループ展の設計に関わっている事例から見えてくるのは竹久自身が従来のアーティストとは距離を置いたポスト・アーティストとも言える態度であり、竹久自身が重要視するポスト・インターネット以後の撮影というキーワードと結びつき、『スーサイドシー ト』を経て今展の骨格へと変容していくこととなります。事故時の死傷率の高い席である助手席/スーサイドシートでの経験をデカメロンという時空間に展覧会『スーサイドシート』 として展開しました、そして本展覧会である『ピンチ』ではコンセプトを継続し、より強固なものへと変化させます。
『スーサイドシート』では竹久は写真撮影時に重要とするポイントが“カメラ本体でも撮影する本人の意思”でもなく、“写真を撮影するためのロケーションまで行く道中の車内でのあれこれ”という間延びしたプロセス自体が《撮影する》という言葉を基礎に、その撮影で使用していたが廃車となってしまった自動車関係のオブジェクトやマクドナルド・ドライブスルーでのハンバーガーの紙袋、深夜に撮影した写真群、その全て/インスタレーションを≒写真もしくは撮影と定義するという展覧会でした。 『スーサイドシート』によってアーティスト竹久直樹と、廃車自動車がこの展覧会によって再会を果たしましたが展覧会の賞味期限は短く、再度、解体され、またお別れとなりました。
しかし、解体した展覧会は洗濯ばさみにつるし、天日干しさながら、乾燥食品のように軽く薄く、賞味期限も延長されます。遅れてきた個展『ピンチ』によって『スーサイドシート』 で降霊した廃自動車は転生し、歌舞伎町のストリートを漂うこととなるでしょう。
(よしだ・やま/散歩詩人)